優しい?
朝5時だというのに、渋谷の街はすっきりお目覚めです。
おそらく、寝ることさえ忘れてしまっているのでしょう。
その中を8人で歩いていました。
カラオケを終え、一人の女の子がフラリズムです。
優しさ半分、一番の知り合いという関係性半分で、
私が付き添い担当になりました。
周りから見ると、立候補のように見えたのだと思います。
その子の歩幅にあわせて歩く自分に目もくれず、
他の6人はどんどん歩みを進めていきます。
女の子グループの一人の家にその子も泊まるという会話の流れがあったので、
きっと駅で待っていてくれるのだろうと思っていました。
一応、駅まで数百メートルのところで友人に電話をかけてみると、
「今、ちょうど皆電車に乗ったとこやねん♪」
という予想外の応えが返ってきます。
「とりあえず、ちょっと待ってよ!」
と伝え、駅まで行き、再び電話をかけると、
「電車、出発してしもうた!」
とあくまで被害者側にたった関西弁が聞こえます。
確かに「待て!」と言われて待つ犯罪者はいませんが、
被害者面をするのだったら、待って欲しかったと思います。
9回裏ワンアウト満塁、一打逆転、カウントノースリー。
当然サインは、1球待て。
しかし、サインを無視し、外目のスライダー引っ掛けセカンドゴロ。
結果、ゲッツーでゲームセット。
この時のチームの監督ぐらいムカついたことを、この場だけ伝えます。
普段羨ましがっている関西弁が、こういうときに限って、
非常に腹が立つのは、自分が関東人の証拠なのでしょう。
この状況下で判断に困った私は、とりあえずフラ子に判断を仰ぎます。
「大丈夫です!帰れます!!」
虚ろな目とは裏腹に、はっきりした応えが返ってきます。
それが嘘なのは、ライブドアメールよりも明らかです。
しかし、どうやらフラ子は、自分が人に迷惑をかけてしまっているのでは?
と言う疑念がある状況をひどく嫌う質の子のようなので、
とりあえずその子の乗る線まで送っていくことにしました。
途中何度も、「私が送っていきます。」と言われましたが、
それは自分的にありえないことです。
まだ、フレミング左足の法則の方がありえるでしょう。
駅の改札まで行き、「大丈夫です。行ってください!」と言うので、
フラ子の迷惑かけたくないポリシーを尊重して立ち去ります。
正しくは、立ち去る振りをします。
電車に乗る所までは安心できん!と、
やたら耐震グッズを買う人のような決意が芽生えたためです。
少し離れた所で見ていると、案の定、その場で柱にもたれかかり、
休憩をしだしました。
フラ子の前でカップルがひと悶着を始めたので、
ほのかにストーカーのような行為を飽きずに続ける事ができました。
今の自分の行為は、ストーカー分類によると「イノセントストーカー」
に違いないと考えていると、見るからに怪しい男が現れます。
エロ可愛いが流行っている世の中だからと言って、
エロ怪しいを受け入れるわけにはいきません。
悪い期待に応え、エロ男はフラ子に声をかけます。
「仕事楽しい?」
みたいなことを聞いていたのだと思います。
遠くで見守ろうと思っていたのですが、残念ながら出て行くしかないようです。
エロ怪しいよりは、エロ毛深いの方が強いだろう!
という謎の計算もあり、普通にエロ男とフラ子の間に入り、
好戦的な目線をエロ男に向けます。
スゴスゴ。
スゴスゴ。
エロ男は去っていきます。
怪しいより毛深い方が強いと証明された瞬間です。
そんな証明はさておき、フラ子にもう一度問います。
「大丈夫です。帰れます。」と言うので、
とりあえず改札を通ることを進めます。
意外と素直に従うのですが、相変わらず迷惑かけたくないポリシーが
ヒシヒシと伝わる発言を繰り返すので、また尊重し、立ち去ります。
はい、立ち去る振りです。
フラ子が駅の階段を下り、ホームに向かったのを確認した後、
初乗り切符を購入し、フラ子の降りた階段よりちょっと離れたエスカレータで
ホームに降り、フラ子を探します。
やはり、柱にもたれかかり、休憩をしています。
1本電車を乗り過ごし、2本目も乗り過ごし、突然階段を昇り始めます。
何をするのかなと見ていると、階段を昇りきり、また柱にもたれかかります。
そして、コンビニに入り、また階段をまた降り、また昇り、
外を眺め、柱にもたれかかり、またコンビニに入ります。
その間、私は寒さに耐え、柱を巧みに使い見えないポジションを取り、
隠れる柱がない時は精算機で切符の精算をする人を演じたりしていました。
若干面白くなっていたのですが、45分ぐらい立ち、
フラ子がコンビニに入った所で声をかけます。
「大丈夫じゃないんでしょ?」
さすがにフラ子も認め、「一人で寂しかったんです。」
と素直な発言をします。
「言いたい事があるなら言え!」
面談の時に上司に言われた言葉を思い出します。
この言葉には、「常識的に言ってよい範囲で」と言う前提が隠れています。
本当に言いたいことを言ってしまったら、私は極悪です。
多分、フラ子にとって、「駄目です。」や「一緒に休んでください。」は、
「悪」に分類わけされているのだと思います。
だから、彼女にこの言葉を言うのは止めておきました。
「茶ーしようぜ♪」
今どき、ありえない誘い文句で休憩に誘います。
一般男子ならホテルという考えも浮かぶのでしょうが、
というか私も浮かんだのですが、関係性や自分のポリシー的な部分を考慮して、
本当に「茶ー」しに行きました。
少し休み、「大丈夫です!」と言うので、再び駅に向かいます。
今度は足取りも発言もしっかりしていたので、改札まで送り、
通ったことを見届けて、やっと心の耐震グッズが満足ゾーンに達します。
今考えると、自分の行動が正しかったのかよくわかりません。
でも、ちょっと楽しかったです。