ポテトが消えた

土曜日は、シンデレラ曜日。

だから、ポテトは食べてはいけない。

ポテトを食べることは、ファーストにフォークを投げるのと同じ。

だが、わかっていてもやりたくなる時がある。

昨日がまさにそうであった。

講師にセット+マックナゲットを買ってきてもらい、

ランチタイムに突入した。

普段なら、はじめはハンバーガーの所を、

あえてナゲットから食すことにした。

これは、気付かれないうちに、

シンデレラが狙いそうなものをなくしてしまおうという意図があった。

しかし、予想外の出来事が早速起きた。

なんと、敵の数を数え間違えていたのだ。

I want something to eat.

王子だ。

シンデレラとセット販売したいので、そう呼ぶことに今決めた。

人に物をもらう時に、おちゃらける奴が大嫌いだ。

が、何も言わないと「無視だよ!」とお笑いの突っ込み風に言う。

王子は、発言の大半が基本的にいらない。

冬の冷やし中華のようだとよく思う。

無視ではなく沈黙だと思っているが、めんどくさいので黙って一つあげる。

その時だ。

左目に立ち上がる人の姿が映った。

シンデレラだ。

ナゲットまでの歩行に一切の無駄はなく、おまけに躊躇もなかった。

いつまで追いかけても月をつかめない僕らをあざけ笑うかのように、

シンデレラはナゲットをつかみ、口に入れた。

冷やし中華王子も、さすがに空気が読めたらしく、つっこんだ。

「いやいやいや。」

「王子ももらったでしょ!?」

「一応、許可は取ろうよ。」

「私は特権だから。」

この言葉に、私は呆れた。

ジャイアンが可愛く見えた。

シンデレラにこんな特権をあげるなら、

ジャイアンにしずかちゃんの風呂を覗ける特権をあげたい。

そう思いながら、決して顔を上にあげなかった。

上には、笑顔のシンデレラがいるからだ。

結局、5個中2個を取られた。

PKだったら、大事だ。

ポテトだけは、取られまいと思い、

私は頃合を計った。

美味しく食すよりも、取られないようにすることを選択した。

シンデレラの食欲をそそらないため、ポテトを冷ました。

そして、ちょっと離れた隙に食べようとしたその時だった。

「ください。」

冷やし中華王子だ。

頼み方は正解したのだが、お前にあげるとどうなるかを、

少し考えていただきたかった。

断ると、まためんどくさいので、黙って一つ上げる。

と同時に、もう一つの手が伸びていた。

シンデレラだ。

さっきまで遙か遠くにいた彼女は、もう目の前にいた。

その速さは、谷間強調服の女子を目の前にした男子の目線よりも、

数億倍速く、そして美しくなかった。

1本、2本、どんどん減っていくポテトを見るしかなかった。

まだ、単位が「本」だからその時は良かった。

電話が鳴り、当然私はとった。

その瞬間、ポテトの単位が「本」から「箱」に変わった。

もはや、どうでも良くなった。

食事を終え、ゴミ袋を所定の場所に置くため、少し外に出た。

帰ってくると、入らせまいとドアノブを押さえ、笑っている王子とシンデレラ。

怒りなど生まれなかった。

ただ、綺麗な青空を見たくなった。

だから、その光景を置き去りにし、もう一度外に出た。

空は、当たり前に青かった。

私は、ファーストにフォークは投げないと、空に誓った。